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最高裁判所第三小法廷 昭和41年(オ)868号 判決 1967年3月14日

上告人

双葉油圧工業株式会社

右代表者

金子真一

右訴訟代理人

浅沢直人

瀬沼忠夫

被上告人

渡辺喜代松

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人浅沢直人、同瀬沼忠夫の上告理由について。

当裁判所は、株主である取締役は、当該取締役の解任に関する株主総会の決議については、商法二三九条五項にいう特別の利害関係を有する者にあたらず、したがつて、右取締役は、株主として前記株主総会の決議について適決に議決権を行使することができるものと解するのであつて、これと同旨に出た原判決の判断を相当として是認する。その理由は、次のとおりである。

株式会社の株主の有する権利の本質は、単に株式の利益配当を受けるというだけにとどまらず、会社の支配ないし経営に参加することができるという点にもあると解せられる。そして、株主は、原則として、株式会社の最高の意思決定機関である株主総会において、自己の議決権を行使することにより、当該株主として有する前記権利を現実に行使することができるのであつて、みだりに、その議決権の行使を制限するような解釈をすることは、株主が有する前記権利の性質に照らし、妥当とはいいがたい。

ところで、商法二三九条五項は、株主総会の決議について特別の利害関係を有する者に対して議決権の行使を禁じているが、特別の利害関係を有する者の意義については、なんら規定するところがない。しかし、前段に説示した趣旨からいつて、会社の支配ないし経営の参加に関する事項について、いわゆる特別利害関係人にあたるとして、株主の議決権の行使をみだりに排除することは、相当でないというべきである。

特定の株主が、その株主の地位を離れて純粋に個人的な利害関係を有するにすぎない場合、たとえば、株主が会社の営業の全部もしくは重要な一部を譲り受ける場合(商法二四五条参照)とか、株主たる取締役のした不法行為責任を免除する場合(商法二六六条参照)などは、右株主が株主総会の決議についていわゆる特別利害関係人にあたると解すべきことはもちろんである。しかし、株主が単に個人として利害関係を有するにとどまらず、同時に、会社の株主として会社の支配ないし経営の参加に関する事項について利害関係を有する場合、たとえば、会社の取締役等を選任ないし解任しようとするような場合においては、株主たる当該取締役等は、個人として利害関係を有するにとどまらず、同時に、前記のように会社の支配ないし経営の参加に関する事項として、株主としても重大な利害関係を有していることは明らかであるから、純粋に個人的な利害関係を有するにとどまる前記の場合と同一に解することはできない。

元来、株主は、株主総会の決議において、自己の議決権を行使する場合には、議決事項のすべてについて、会社の利益を考慮することはもちろんであるが、同時に、自己の利益を図ることももとより許されることであり、その結果、各株主の利害が対立して、見解の相違が生ずるときは、結局、多数決の理論によつて、その結論が決せられることになるのであり、このことは、多数の株式の存在を予定している株式会社制度上当然のことであるともいうことができる。

以上のように考えてくると、特定人を会社の取締役もしくは監査役に選任し、または、これを解任するということは、会社の支配ないし経営について、もつとも重要な事項に属するから、株主としては、単に株主総会において発言することができるにとどまらず、これらの事項について、その議決権の行使が許されるべきであつて、取締役・監査役たるべき特定人が株主だからといつて、当該事項について、その株主の議決権の行使が禁じられるいわれはないというべきである。

このことは、当該特定人がたまたま過半数の株式を有しているため、取締役等に選任され、もしくはその解任を免れ、または、逆に少数の株式しか有していないため、取締役等を解任されるようなことがあるとしても、それは、会社の支配ないし経営の参加の問題が、窮極的に、株主の手にゆだねられていることの当然の結果であるともいうことができる(なお、その結果、あまりに不当な場合について、商法二五七条三項、二八〇条の定めるところにより、取締役等の解任の訴による救済の途が開かれていることを考慮すべきである。)。

それゆえ、その特定人は、株主総会において、自己の取締役の選任または解任に関する決議についても、なんら制限を受けることなく、株主として議決権を行使することができるものと解すべきであつて、原判決が右特定人は商法二三九条五項にいう特別の利害関係を有する者にあたらないと判断したのは相当である。

以上述べたとおり、原判決の法令の解釈は正当というべく、論旨は、これと異なる見地に立つて原判決を非難するものであつて、採るをえない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(横田正俊 柏原語六 田中二郎 下村三郎 松本正雄)

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